みんな大好き!愛されとん汁

豚肉やごぼう、にんじん、じゃがいもなど、たくさんの具材がスープに溶け込み、みそが香りを添えた「とん汁」。普段みそ汁を飲まない子どもたちも「とん汁」と聞くと目の色を変える。寒い日に食べる温かいとん汁は、最高のごちそうだ!

とん汁が愛される理由は、なんといっても食材の旨味が溶け込んだスープ。鶏や牛とは違う豚肉独特の風味や歯ごたえが、伝統的な日本料理にはないおいしさを生み出し人々を魅了する。豚の脂で汁の温度が下がりにくく、スキー場や冬の催し物でも大人気だが、九州や沖縄など、暖かい地方でも盛んに食べられている。

とん汁物語

みそ汁は鎌倉時代から食べられていたとされるが、天武天皇が最初の「肉食禁止令」を出してから、およそ1200年にわたり日本では牛や豚などの肉はNGだったため、とん汁の歴史はそれほど古くはない。

とん汁のルーツは諸説あり、けんちん汁に肉を入れたという説、ぼたん鍋を参考にした説、旧日本海軍においてカレー粉の代わりにみそを入れてつくったことから始まったという説、北海道の開拓を行った屯田兵が食べた「屯田兵の汁」を「屯汁」と呼ぶようになったという説、薩摩汁の豚を使うものが独立した説など、さまざま。

肉食が禁止されていた時代でも、獣肉は人々の間で病人の養生や体力増進のための「薬食い」と称し、ひそかに食されてきた。猪の肉を「牡丹」、鹿の肉を「紅葉」と呼ぶようになったのは、そのためだ。みそは、肉の臭みをやわらげる「マスキング効果」があるため、肉を食べるには最適の調味料であった。明治時代、政府が富国強兵政策として養豚事業を開始して以降、さらに日露戦争が、豚肉の普及に一役買った。兵士の食糧として牛肉を多用したため絶対量が不足し、その代用として豚肉が注目されるようになった。以降、じわじわととん汁が全国的に広がっていったのではと推測される。

 

 

「とん汁」と「けんちん汁」の違い

どちらも多種の具材を使ったみそ汁(けんちん汁は醤油で味を調えた澄まし汁の地方もある)なので混同されやすいが、とん汁とけんちん汁の大きな違いは、「けんちん汁に使う具材は一度油で炒める」ということ。けんちん汁は精進料理のため、だしも昆布としいたけから取り、豚肉なども加えられなかった。

 

とん汁? ぶた汁?

「とんじる」と呼ぶ地域と「ぶたじる」と呼ぶ地域があるが「とんじる」は東日本に多く「ぶたじる」は西日本や北海道に多いといわれている。『NHK漢字表記事典』によれば「とんじる」「ぶたじる」どちらでも間違いはないとされる。

 

とん汁の秘めたるパワー

とん汁は具だくさんな汁物の定番で、一品でたんぱく質、ビタミン、ミネラルなどさまざまな栄養素をとることができる。どんな具材とも相性がよく、季節に合わせて材料もアレンジできる通年レシピ。豚肉に多く含まれるビタミンB1の吸収を高めてくれる成分「アリシン」は、長ねぎや玉ねぎなどに多く含まれ、とん汁に合わせるには最適だ。また、七味は食欲を増進させる効果が。老化の大きな原因は、細胞脂質が酸化して過酸化脂質が発生すること。老化を遅らせるためには、この過酸化脂質の発生を抑える、抗酸化作用のある食品をとることが大切とされる。

みそは、大豆と麹、塩を加えて発酵させてつくられるが、発酵・熟成の過程でだんだんと色が濃くなり、赤褐色に変化する。これは、主にアミノ酸と糖が反応することで起こる「メイラード反応」というもので、「メラノイジン」という褐色の物質ができる。 この「メラノイジン」は、強力な抗酸化作用があると、にわかに注目を浴びている成分。ほかにも、糖尿病予防や発がん物質の生成抑制などの効果が期待されている。

また大豆そのものにも抗酸化作用がるが、みそは大豆に比べ、はるかに高い抗酸化力があることが発表されている。
みそに加え、ビタミンB1の豊富な豚肉が入ることで、活性酸素の消去にさらに有利な一椀になりえるとされる。
参考:「みそサイエンス最前線」

 

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藤本智子

【MISODO(藤本智子)】株式会社ミソド代表取締役、一般社団法人みそまる普及委員会理事、月刊「ジャパン味噌プレス」編集長、みそソムリエ。アパレル販売員、読者モデル等を経て、2011年「ミソガール」として味噌の普及活動を開始。みそまる考案。ミラノ万博や伊勢志摩サミット等イベントやメディア出演を通し、味噌の魅力を伝えている(2019年MISODOに改名)。著書に『みそまる』(宝島社)、『みそまる 作りおきみそ汁83のレシピ&アイデア』(二見書房)、『手軽に作れて、キレイに効く! みそまる』(主婦と生活社)等。 ※WEB版に掲載している記事は、取材当時の情報です。現在と内容が変わっている可能性がございます。