【対談】全国味噌工業協同組合連合会会長・赤羽総一郎さん「味噌の香りを次世代へ」

若い人たちにもっと味噌を

藤本 あけましておめでとうございます。本年もどうぞよろしくお願いします。早速ですが、味噌業界としては、昨年はどんな一年でしたか。

赤羽 味噌の出荷量は一昨年からわずかに増加しています。減り続けていたものが2年連続で下げ止まったのはスゴイこと。「和食」が無形文化遺産に登録されたことを追い風に盛り上げていこうという機運もあります。ただそれが経営的実感を伴っているかというとまだまだで、業界内では競争の激化も否めません。味噌汁を飲む習慣、食べる機会が増え、パイが広がっていくことが望ましい。ミソガールさんのような若い人、今まであまり味噌を食べなかった人が食べるようになり、今まで買わなかったものも買ってみようとなれば、もっと増えていくはずです。

藤本 私もそう思い、若者や親子を対象にしたセミナーやワークショップの場、「ジャパン味噌プレス」やウェブを通して味噌の基本をお伝えしていますが、「味噌がそんなに(体に)いいとは知らなかった。もっと味噌汁を飲みます」「みそまる(手づくりの即席味噌汁)を家でもつくってみます」などと言ってくださる方が多く、手応えを感じています。

赤羽 今までも伝えてこなかったわけではありませんが、時代の変化に合わせた方法やターゲットというところでは十分でなかったのかもしれません。皆さんのような発信や行動は確実に力になると思います。「みそまる」もネーミングや切り口が新鮮で、今の人はこういう発想なのかと勉強になります。

藤本 勉強なんてとんでもない。ただこんなに楽しい、「味噌のある生活」を伝えなければもったいないなと、寝ている時間以外は「味噌活」をしている私です。味噌は知れば知るほど奥が深くて楽しいし、人に伝え甲斐があります。とにかく私は、何も知らないところからのスタートでしたので、味噌を知らない、食べない人の気持ちはわかる。今も学びながらの発信ですが、どんどん夢がふくらみます。

赤羽 消費者の気持ちがわかる…それが一番の強みです。味噌屋にしたら当たり前で「そんなこと〜」と発信の対象に考えなかったのがいけなかった。何年か前ですが、味噌の基本をまとめた冊子をつくったところ、かなりの反響があって、「味噌のことはあまり知られていないんだ」という気づきにもなりました。

 

がんばっている味噌屋の思い

藤本 出会った方々には「どんなお味噌を食べていますか?」と尋ねますが、原料も、産地も答えられない方がほとんどです。

赤羽 日本各地に、その土地の歴史や風土、文化とともに育まれたいい味噌がいっぱいある。スーパーに並んでいる味噌はその一部。数は力、継続は力で、小さいところもがんばっています。

藤本 全国に1000社近い味噌メーカーさんがあると話すと、皆さんびっくりされますよ。

赤羽 私も会長になり、全国にはいろんな味噌屋があり、皆さんそれぞれの思いで個性的な味噌をつくっていることを改めて知りました。職人さんたちが培われた知恵や技術、若い人たちが悩み工夫しながら、真心を込めて味噌をつくっている、そんな仲間の姿にふれることができたのが一番の喜びです。

藤本 私も同じです。味噌メーカーさんから「味噌は私たちがつくるものではなく、微生物たちの働きによるもの。しかもさまざまな自然環境や一緒に食べるほかの食材とともに在るものだからなおさら感謝しなければ」と聞いて、その通りだと思いました。長年の勘や熟練の技が命の醸造業というのは、毎日が修行であり、勝負なのですね。

赤羽 味噌の場合、今日やったことがすぐに結果にあらわれず、原料もその年々の天候によって品質が振れてきます。その中で品質を維持しておいしい味噌をつくり続けるのが味噌屋の腕の見せどころです。研鑽を積み、こだわっているから出せる味がある。それをどう説明するか、ストーリーづけるかが課題です。

 

味噌がもつ機能性と文化性

藤本 外国の方は、日本人はこれだけの文化を当たり前に継承していながら、その素晴らしさに気づいていないといいます。私もそうでしたが、若い頃はみんなそうだと思うんです。以前、一人暮らしをしていた時は外食やコンビニ弁当の生活で、味噌どころか食への意識もありませんでした。そんな生活が「肌荒れ」というカタチで表に出てきたことが幸い。大切なことに気づき、「味噌」に出会うことができたのです。

赤羽 藤本さんのように、味噌を食べて健康になったという話は、食べていなかった人に食べてもらうための一番のきっかけになります。もちろんおいしくなければダメですが、機能性を伝えることも大事です。最近は味噌の研究も進み、がん予防に効果があることや血圧にも影響しないことがわかっていますので、説明していけたらと思います。

藤本 味噌活をしていていつも思うのですが、出会ったのが「味噌」でよかった、と。味噌は健康にも美容にもいいし、おいしくて便利です。料理が下手な私でも、味噌が「料理上手」にしてくれます。こんな食品はほかにはありません。

赤羽 味噌は親和性が高く、あらゆる食材を包括し、味を整える力がある。具材や味噌を変えれば変化が楽しめ、毎日でもおいしくいただけます。1300年もの間、日本の風土や生活の中で息づいてきた味噌だけに、その文化性の価値を含め、積極的に伝えていければと思います。
味噌を五感で感じる、みそまる体験

藤本 この新聞ではおなじみの「みそまる」ですが、昨年は「みそ健康づくり委員会」さんにもご協力をいただき、みそまるづくりのワークショップを全国で行いました。一杯分の味噌とだしと具材を丸めるだけという、シンプルな味噌汁のつくり方・食べ方提案ですが、みそまる体験を通して、皆さんにたくさんのことをお伝えすることができるのです。

赤羽 みそまるは、素手で味噌を丸めるのですよね。五感で味噌を感じる体験は貴重ですね。

藤本 ワークショップでは皆さんに、素手で味噌をさわっていただきますが、味噌を手のひらにのせた瞬間の表情がもう最高!  本当にいい笑顔になるんです。味噌の匂いを嗅ぐ人、なめる人、愛おしそうにコロコロする人、懐かしい〜と思い出話を語りだす人もいて、皆さんの反応の良さや質問の多さに驚かされます。

赤羽 どんな質問があるのですか。

藤本 中には何が入っているの? どんな味噌を使えばいいの? どれくらい日持ちするの?といった質問が多いですね。味噌を混ぜるとおいしいですよと合わせ味噌をおすすめし、冷凍庫なら1か月以上は持ちますよと答えます。

赤羽 食べ慣れた味噌を変えにくい人もいるけれど、もう1つを買ってもらえばいいのですね。

藤本 みそまるをお伝えすると、皆さん「なるほど。とてもいいことを教えてもらった。すぐにやってみます!」と喜ばれます。できたら冷蔵庫に味噌3つ。「味噌生活」がうんと楽しくなりますね。

 

味噌は日本人の生活の一部だった

赤羽 今ではパック売りが主流ですが、かつて量り売りが大半だった時代は、常にお客様とコミュニケーションしながら味噌を売っていました。「今年の出来は…」「今日は寒いからこんなお味噌汁はどうですか?」と話し、納得して買ってもらう…。味噌は人々の生活の一部でした。

藤本 商店や商店街の衰退は日本中の問題で、味噌屋さんに限ったことではありませんね。

赤羽 生活スタイルの変化とともに地域経済も変わっています。味噌は伝統食品だからという甘えは禁物で、各社企業努力を惜しまず、地域文化として生き残っていってほしいと思います。

藤本 ところで、赤羽会長が、家業の「上高地みそ」を継がれたのはいつですか。

赤羽 私は長男ですが、先代である父に好きにしていいよといわれ、大学を卒業後15年間は銀行に勤めていました。父が病に倒れ、家に戻ったのは23年前のことです。

藤本 突然で大変だったのではないでしょうか。

赤羽 こんなことがありました。ご存知のように、業界には「鑑評会」という味噌のコンクールが毎年あって、全国の味噌メーカーが最高の味噌をつくって出品します。うちでも今年はどれを出品しようかと選ぶ段になって、技術者と味噌の感じ方がまるで違ったのです。味や色、香り、ツヤなどの要素がありますが、10年経った頃、ようやく技術者と同じものを選べるようになりました。

藤本 10年もかかるとは厳しい世界ですね。でも1300年の歴史でいえば早いのではないですか(笑)。

赤羽 ハハハ。そうかもしれませんね。幼い頃から木桶の陰でかくれんぼをしたり、大豆袋の山に登ったりして遊んでいましたので、私の原体験として「味噌の匂い」があります。

藤本 大豆の炊けるあの独特の匂いは、なんともいえずほっとする、本当にいい匂いですよね。

赤羽 子どもの頃にそれを「いい匂い」と感じた人は、大人になってもその感覚を持ち続けてくれるでしょう。そう思って、今も小学生の蔵見学は歓迎しています。先ほどの「みそまるワークショップ」も、五感を刺激する体験の場として、とてもよいことだと思います。

 

お母さんの味噌汁の味と香り

赤羽 和食の無形文化遺産登録も、原点は「家庭の食卓」です。皆さん忙しいけれど、できるだけ家族で食卓を囲み、そこには湯気の立つ温かい味噌汁があってほしい。そう願っています。

藤本 ミソガールは、味噌を食べてお母さんを目指そうという活動です。私もいつか母になれたら、味噌汁の香りを伝えたいですね。

赤羽 何事も「人」が基本です。「おふくろの味」を知らない若者が多い世の中ですが、幼少期の家庭生活が人間の根幹をつくる。お母さんがつくる味噌汁の味と香り、これだけは伝えてほしいと思います。

藤本 味噌を食べる時、味噌の話をしている時、みんなとてもいい笑顔ですし、味噌を食べてきれいな体になれば、元気な赤ちゃんもたくさん生まれるような気がします。大げさかもしれませんが、私は味噌が日本中、世界中を幸せにすると思っています。今年は全力で「みそまる」をがんばります。「和食」の次は「味噌」でユネスコ登録を狙いませんか?

赤羽 いいですね。今年は「ミラノ万博」もありますから、ぜひその勢いでもっとハジけて活躍してください。おおいに期待しています。

藤本 今日はたくさんのお話を聞かせていただき、どうもありがとうございました。

 

【赤羽総一郎さんプロフィール】
1954 年生まれ。東京大学経済学部卒業後、銀行に勤務。その後、松本市に帰郷し、 信州味噌醸造販売「上高地みそ」三代目に就任。2011 年以降、日本全国の味噌メーカーが加盟する全国味噌工業協同組合連合会の会長として活躍中。

Japan Federation of Miso Manufacturers Cooperatives wants to take advantage of the addition of Washoku to the UNESCO cultural heritage list and to propose more opportunities for young people to have miso soup. He thinks information provided by someone like Miso Girl, which comes from a consumer’s perspective, is helpful. He says a good thing about being a chairman of the organization is that he gets to meet people who are dedicated and passionate to making miso. He will continue to work to spread the appeal of miso, a traditional food nurtured by the Japanese climate and communities.

ABOUTこの記事をかいた人

藤本智子

藤本智子(ふじもとともこ) 1985 年生まれ、横浜市在住。アパレル販売員、読者モデル、ファッション雑貨店マネージャーを経て、2011 年ミソガールとして「365 日味噌活宣言」をし、みその普及啓蒙活動を開始。2012年「みそソムリエ」取得。2014 年「ジャパン味噌プレス」創刊。2015年「ミラノ国際博覧会日本館サポーター」「朱鷺米応援大使2015」(佐渡市)に就任。著書に『みそまる』(宝島社)、『みそまる 作りおきみそ汁83のレシピ&アイデア』(二見書房)、『手軽に作れて、キレイに効く! みそまる』(主婦と生活社)等がある。2016 年より「中央情報専門学校」非常勤講師。2016年10月株式会社ミソド設立、代表取締役。一般社団法人みそまる普及委員会 理事。