丸紅食料代表取締役社長・島崎隆平さんに聞く「みそ」を次代へ伝えるために

近年のライフスタイルや社会環境の変化で、みその消費量は減少の一途を辿り、みそメーカーの廃業も相次いでいる。日本人の心のふるさとともいえるみそ汁離れが進む中、従来の即席みそ汁(生みそ・粉末・フリーズドライ)とは全く異なる、新しい即席みそ汁として誕生したのが、みそにだしと具材を丸めてつくる「みそまる」だ。先の合併で、日本一のみそ専門問屋となった丸紅食料株式会社代表取締役社長・島崎隆平さんに、みそ業界の今後、丸紅食料の役割などを聞いた。
(文:青柳真美 写真:小川忠昭)

吸収合併を経て変わっていくこと

藤本 改めて、丸紅食料とはどんな会社であるのか、おしえてください。

島崎 総合商社の丸紅株式会社を親会社に持つ食料専門商社です。「飲料」と「食品農産」と「食品原料」を3本柱に、日本の伝統ある食文化を守り育てながら時代のニーズにも迅速に対応し、商品の提供を行っています。食品農産事業ではみそを主力とし、みそ専門問屋として存在。全国からみそを取り揃え、その取り扱いは国内トップとなっています。和食が世界的に注目される中、みそを通じて、日本の食文化の伝承・発展に貢献しています。

藤本 先頃、大きな合併が行われましたね。

島崎 今年7月に小林産商株式会社と大阪味噌販売株式会社を吸収合併しました。これまでも一緒に仕事をしていたグループ会社ですから前々から話は出ており、創業40周年を機に統合したことになります。

藤本 名実ともに日本一のみそ専門問屋になったわけですね。おめでとうございます。会社としては何かのタイミングだったのでしょうか。

島崎 長くおつきあいしていた男女が、そろそろ一緒になろうか?と結婚したような感じですね。そのときたまたま社長だった私が仲人役になったというわけです。

藤本 それによって社員の皆様に変化はありましたか。

島崎 まだ実感がわかないのではないでしょうか。商品の品質管理の維持向上はもちろん、時代のニーズに応えていくための機動力アップ、体制整備など目的は多々あるものの、一つひとつクリアしていかなければなりません。これから意識を変えていかなければ、というところです。

一本の電話で丸紅食料へ

藤本 島崎社長のキャリアについておしえてください。

島崎 丸紅株式会社で最初に配属された福岡支店、その後の東京本社勤務では、飼料原料に携わっていましたが、その後ジャカルタ(インドネシア)に家族帯同で4年間駐在。帰国後、本社に戻り、今度は油脂関連業務を行いました。その後、名古屋支社に異動しましたが、そうこうするうち今度はベトナムへ行けと。子どもたちの学校のこともあり、単身でホーチミンに渡りました。支店長として勤めた後は、熊本製粉株式会社(本社:熊本市)に出向。戦後の食糧難時代にブリヂストンの創業者石橋正二郎氏によって設立された、しっかりとした懐の広い会社で、商社とは異なる経験をさせていただきました。

藤本 商社とメーカーの違いとは、具体的にどのようなことですか。

島崎 商品を扱う商社に比べて、一つの原料をいかようにでも料理して製品化できるところが、メーカーの面白さ。技術力も非常に高く、社長に近いところで仕事をさせてもらい学ぶところも多かったので、もうここにずっといてもいいなと思っていた矢先、丸紅食料へという一本の電話がありました。私にとっては全く予期せぬ出来事でした。

藤本 社長に就任されたのは、いつですか。

島崎 2014年4月に丸紅食料へ転籍。早々「みそまるというのがスゴイんだよ」と聞いて、「この目で確かめたい」そう思って、新潟のみそまるイベントをのぞかせてもらったことが、ある意味「みそへの意識の目覚め」だったのです。

衝撃的だったみそまるとの出会い

藤本 新潟ふるさと村で「みそまるワークショップ」をやらせていただいたときのことですね。そんな風に言っていただき、うれしいけれど恐縮です。その少し前に、長野で行われた「食育推進全国大会」で「みそまるワークショップ」を出展。「みそまる」をテーマにしたはじめての大きなイベントでしたが、想像以上に皆様に喜ばれ大盛況でした。新潟では食材も地元産品を意識することで、より「越後みそ」をクローズアップすることができました。2つの大きなイベントの成功を弾みに、みそまるで「みそ」を伝えていく可能性を感じました。

島崎 びっくりしたのは、みそを手でじかに触っていたことです。みそ汁を並んで飲むのだろう程度に思っていたら、みそを丸めるというではないですか。私もやらせてもらいましたが、みんなが楽しそうにコロコロしているのを見て、正直、感動いたしました。

藤本 みそまるは、そこがポイントです。当初、みそまるづくりを考えたときに、食育の視点から、まずは子どもたちにやってほしいと考えたんです。試しに甥っ子3人に丸めてもらったところ、ラップを使ってやるのと素手でやるのとは、雲泥の差がありました。嬉々としてみそを触り、もっともっとと、それは楽しそうにみそを丸めてくれたのです。最近は衛生上の問題で、手袋をしてくださいと指導を受けることもありますが、できるだけ素手でやってほしい。お母さんのおにぎりがおいしいのと同じ。「愛情を込めて、みそをコロコロしてください」と言うんです。

島崎 ミソガールさんらしい台詞ですね。量販店の催事といえば、みその量り売りでしたが、みそまるには、よりおいしい笑顔が溢れていて魅力を感じました。うちの社員にとっても、自分たちの商品が人を喜ばせることができる素晴らしいものだと知る、いい機会になる。すぐに「量販店でもみそまるイベントがやれたらいいな」と直感。できるだけ生でみそに触れてほしいと、私も思います。体験することで細胞が刺激され、目覚めというか、大きな気づきがあると思います。

みそを丸めてもらうと

藤本 みそまるは、小さいお子さんでもつくれるし、みそを丸めたことはずっと記憶に残り忘れないはずです。丸紅食料さんのおかげで、スーパーでイベントを実施し、いろんな世代の方にみそまるを体験していただいていますね。

島崎 大勢のお客様に喜ばれたとどのお店からも好評をいただいています。最初の頃は営業も量販店をくどくのが大変だったようですが、最近は「うちでもやってほしい」と方々から言われているようです。

藤本 みそまるの認知度が上がっていることは実感していますが、みそまる体験会のにぎわいとみその売り上げが比例していくよう、購買の後押しができたらと思います。みそまるには断然「合わせみそ」がおすすめですから、「今あるみそに、もう一つみそを買い足してください」と言うようにしています。

島崎 地味なみそ売り場を華やかにしてもらっているのですから、あとはうちの社員のがんばりどころ。今は効果・効能で売れているみそはあるものの、生みそは即席みそ汁に押され気味です。即席みそ汁はどうしても味が単一ですが、みそまるは無限にアレンジがきき、さまざまな味わいが楽しめます。みそは説明商品ですから、食品としても調味料としても優れたものであることを丁寧にお伝えしていくことが大切です。

藤本 モノを売るのは簡単ではありませんが、「みその違いや特徴をおしえて」とおっしゃる方が多いのも事実です。

島崎 「みそのことを知らない人」が、いかに多いことか…。

藤本 みそが体にいいのは当たり前、メンタル的にもいいことがわかっていますから、おすすめし甲斐があります。

このままでは生みそがなくなってしまう?

島崎 今は飽食の時代。いつでも十分な食事がとれますが、昔は皆みそ汁をおかわりし、ごはんを2膳食べていたものです。それでも健康でいられたのは、ごはんとみそ汁中心のバランスの良い食事のおかげだと思います。業界では即席みそ汁の需要が増えていますが、本当にこのまま生みそでつくるみそ汁の習慣をなくしてしまっていいのか。もっといえば、生みそがなくなってしまっていいのか…真剣に考えるべき時がきています。

藤本 スーパーでワークショップや試食会をやらせていただくときにいつも思うのは、丸紅食料の皆さんが、お客様へのお声がけなどを一生懸命にやってくださることです。部長が率先して「みそを丸めていきませんかー?」と、次々に道行く人の足を止め、島崎社長もまた自らチラシまで配ってくださるという…。本当に感謝しています。

島崎 社員については本部長や部長に任せていますが、やはり現場で感じることが多いので、担当外であっても、会社全体として今何をやっているのかを知ることも大事だと思います。私は、何でも自分で見ないと気が済まない性分で。自分の考えでやりたいことをやろうと。すべては現場を知ることからだと思っています。

求める社員像は考える人

藤本 島崎さんの求める人材とはどんな方でしょうか。

島崎 一言でいえば「考える人」です。みそやコーヒーなど、私どもで扱っている商品が好きという理由で入ってくる人が多いので、商品に愛着があるのはよいのですが、一般論として指示待ち人間になってしまってはダメだと言っています。自分に何ができるか、自分にも何かやれることがあるのではと考えて、どんどん実行していこうという勢いのある人間がいいですね。

藤本 これから先、どんな会社にしていきたいとお考えですか。

島崎 みんなが明るく楽しく働ける会社に。仕事に苦しさはつきものですが、皆で乗り越えようという意識を持てるような会社にしていければと思います。

みそ専門商社として、みその文化を伝えていく

藤本 みそ業界の今後についてはいかがですか。

島崎 みそは誰にでも訴求していける食品です。パッケージや売り場はもちろん、伝え方の工夫も必要です。藤本さんに協力をお願いしてこのたび『味噌BOOK』を発行したわけですが、意外にも知らないことだらけのみそのことをもっと知って、生活に取り入れてほしい。そんな思いを込めてつくりましたので、スーパーやイベントなどでどんどん配っていきます。

藤本 フォトジェニック流行りの昨今、茶色一色のみそ売り場を楽しくてワクワクするような空間にできたらいいですね。

島崎 若い感性や意見を取り入れ変わっていくことも必要です。また超高齢化社会、グローバル社会において健康食や介護食、外国人のニーズもあるでしょう。みそのパワーを再認識させていくのと同時に、新たな需要を喚起すること、それが私たちの仕事だと思います。今後は、コスト上昇、後継者問題等で廃業を余儀なくされるみそメーカーが出てくるかもしれませんが、裾野である「みそファン」を広げていく活動、日本の伝統食文化としての「みそ」を普及啓蒙していくことが、みそ業界を盛り上げるために大切だと考えています。

藤本 私は、みそ生活を始めたことでひどかった肌荒れを改善し、みそで元気になることができました。これからも、みその素晴らしさを次世代へ、海外へ発信し続けていきますので、今後ともどうぞよろしくお願いいたします。

【島崎隆平さんプロフィール】
1956年大阪生まれ。子ども時代は肥満児だったが、大学での運動部の経験で「食べても痩せる」喜びを知り、運動の大切さに目覚める。商社時代の駐在地がアジアだけなので、先進国駐在に憧れた時期もあったが、成長目覚ましい国での駐在経験は公私ともに有益だったと実感している。

ABOUTこの記事をかいた人

藤本智子

藤本智子(ふじもとともこ) 1985 年生まれ、横浜市在住。アパレル販売員、読者モデル、ファッション雑貨店マネージャーを経て、2011 年ミソガールとして「365 日味噌活宣言」をし、みその普及啓蒙活動を開始。2012年「みそソムリエ」取得。2014 年「ジャパン味噌プレス」創刊。2015年「ミラノ国際博覧会日本館サポーター」「朱鷺米応援大使2015」(佐渡市)に就任。著書に『みそまる』(宝島社)、『みそまる 作りおきみそ汁83のレシピ&アイデア』(二見書房)、『手軽に作れて、キレイに効く! みそまる』(主婦と生活社)等がある。2016 年より「中央情報専門学校」非常勤講師。2016年10月株式会社ミソド設立、代表取締役。一般社団法人みそまる普及委員会 理事。